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2026年成年後見制度改正の概要と施行日
これまで「一度利用するとやめられない」「使い勝手が悪い」といった声も聞かれた成年後見制度が、2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された改正法により、制度の基本的な仕組みが見直されることになりました。この改正は、高齢化社会の進展や個人の意思を尊重する社会的な要請を背景に、制度をより柔軟で利用しやすいものへと刷新することを目的としています。
この新しい法律は、公布日(2026年6月24日)から2年6か月以内に施行される予定です。つまり、遅くとも2028年12月24日までには、私たちの生活に関わる新しいルールがスタートすることになります。
今回の改正は、単なる微修正ではありません。これまで制度利用の大きな障壁となっていた「終身制」の原則が見直され、本人の状況に応じて制度を終了できる道が開かれるなど、根本的な構造にまで踏み込んだ内容となっています。成年後見制度は、認知症や障がいなどによって判断能力が不十分になった方々を法的に保護し、支えるための重要な仕組みです。この制度がどのように変わるのかを正しく理解することは、ご自身やご家族の将来に備えるうえで重要です。
この記事では、成年後見制度に精通した司法書士が、今回の法改正で何がどう変わるのか、新旧制度を比較しながら、特に重要な5つの変更点を中心に分かりやすく解説していきます。将来の備えを考える上で、成年後見制度は重要な選択肢の一つです。このテーマの全体像については、生前対策の種類を比較!メリット・デメリットと注意点を専門家が解説で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
【新旧比較表】どこがどう変わる?改正内容を一覧で解説
今回の法改正は多岐にわたりますが、特に重要なポイントを現行制度と比較することで、変更の全体像を掴むことができます。以下に、主な変更点をまとめた新旧比較表を示します。まだ施行前の段階であり、細かな運用は今後の政令等で定められる部分もありますが、現時点で明確になっている骨子を比較しています。

| 比較項目 | 現行制度 | 改正後(新制度) |
|---|---|---|
| 制度の類型 | 後見・保佐・補助の3類型 | 「補助」に一本化(※) |
| 終了要件 | 原則、本人の死亡まで(終身制) | 家庭裁判所の判断で終了可能に |
| 権限の与え方 | 類型に応じて包括的な権限が付与されがち | 必要な権限を個別に選ぶオーダーメイド型へ |
| 後見人等の交代 | 解任事由が限定的で、交代は容易ではない | 「本人の利益」を理由とした交代が柔軟に |
| 任意後見との関係 | 法定後見が開始すると任意後見契約は終了する | 改正後の「補助」と任意後見の併用が可能に |
※判断能力を常に欠く状態の方については、特則として「特定補助」が設けられます。
この比較表から見えてくる最大のポイントは、制度全体について、「画一的」な運用を見直し、本人に必要な支援を個別に定め、必要性がなくなった場合には終了できる仕組みへ改められた点です。これにより、利用者一人ひとりの状況や意思に、よりきめ細かく対応できる制度へと見直されることが期待されます。
【法定後見】5つの重要変更点を専門家が徹底解説
それでは、比較表で示した変更点の中から、特に影響の大きい法定後見に関する5つの重要ポイントを、さらに詳しく掘り下げていきましょう。
1.「終身制」が廃止され、死亡以外でも終了可能に
今回の改正で特に重要なのが、この「終身制の廃止」です。現行制度では、一度後見等が開始されると、本人の判断能力が回復しない限り、亡くなるまで制度が続くのが原則でした。この点が、「一度始めたら抜け出せない」という心理的なハードルとなり、制度利用をためらわせる大きな要因となっていたのです。
改正法では、この原則が見直され、「制度利用の必要性がなくなったと家庭裁判所が認めた場合」には、本人や関係者の申立てにより、後見等(改正後の「補助」)を終了させることが可能になります。
具体的には、以下のようなケースが想定されます。
- 病気や事故による一時的な判断能力の低下から、回復した場合
- 特定の目的(例えば、複雑な遺産分割協議のためだけ)で制度を利用し、その目的が達成された場合
- 信頼できる家族によるサポート体制が整ったなど、他の方法で本人の保護が十分に図れるようになった場合
この変更により、成年後見制度は「必要性が続く限り利用する制度」から、「必要な時に、必要な範囲で利用し、必要性がなくなれば終了できる制度」へと変わっていくことになります。

2.「後見・保佐・補助」の3類型が「補助」に一本化
現行制度では、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。後見では広範な代理権が認められる一方、保佐・補助では、同意権や代理権の範囲が法律または家庭裁判所の審判により定められます。しかし、この区分が分かりにくく、また本人の状態と支援内容が必ずしも一致しないという課題がありました。
改正後は、この3類型が原則として「補助」に一本化されます。 これにより、「どの類型に当てはまるか」ではなく、「その人にとって、今どのような支援が必要か」という本人中心の視点で制度を設計できるようになります。ただし、判断能力を常に欠く状態にある方については、より手厚い保護を図るための特則として「特定補助」という仕組みが設けられる予定です。
3. 必要な権限だけを選ぶ「オーダーメイド型」へ
類型の一本化と関連して、支援の内容も大きく変わります。現行の後見制度では、後見人に非常に広範な代理権(包括代理権)が与えられていましたが、改正後はこうした画一的な権限付与が見直されます。
新制度では、本人の生活状況や希望に応じて、必要な権限(代理権・同意権)を個別に選択して付与する「オーダーメイド型」が基本となります。 例えば、「日常の預貯金管理は自分でしたいけれど、不動産の売却のような大きな契約だけ専門家に任せたい」といったニーズにも柔軟に対応できるようになるのです。原則として、これらの権限を付与するには本人の同意が必要となり、自己決定権の尊重がより一層徹底されることになります。
4. 後見人等の交代がより柔軟に
「後見人との相性が悪い」「もっと適任な人がいるのに交代できない」といった悩みも、これまでの課題でした。現行法では後見人等の解任事由が不正行為などに限定されており、一度選任されると交代は容易ではありませんでした。
改正法では、解任事由に「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」という要件が追加されます。これにより、後見人等に不正行為などがなくても、例えば本人との信頼関係が著しく損なわれた場合や、より専門的な知識を持つ支援者に交代した方が本人の利益になる場合など、より柔軟な交代が可能になると期待されます。また、後見人等を選ぶ際にも、これまで以上に「本人の意見」が重視されるようになります。
5. 報酬体系の見直し|財産額だけでなく事務内容を考慮
専門職が後見人等に就任した場合の報酬は、これまで主に本人が所有する財産額を基準に家庭裁判所が決定していました。このため、管理する財産は少なくても、身上監護(生活や介護に関する配慮)などで複雑な事務を行ったケースでは、労力に見合った報酬が得られにくいという問題がありました。
改正法では、報酬額の算定にあたり、財産額だけでなく「後見事務の内容その他の事情」を考慮することが明文化されます。 これにより、実際に行った支援の内容がより適切に評価されるようになり、後見人等の担い手の確保にも繋がる、より公平な報酬体系となることが見込まれます。
【任意後見】制度もより使いやすく柔軟に変わります
今回の改正は、家庭裁判所が後見人等を選任する「法定後見」だけでなく、本人が元気なうちに将来の代理人を自ら選んでおく「任意後見」制度にも及びます。
主な変更点は以下の通りです。
- 任意後見監督人が選任されないケースの新設:これまでは任意後見が開始されると任意後見監督人が選任されていましたが、改正後は、家庭裁判所が明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認める場合には、監督人が選任されない運用が可能になります。これにより、監督人への報酬負担を軽減できる可能性があります。
- 予備的な任意後見契約の活用が可能に:任意後見契約を結んだ相手(任意後見受任者)が先に亡くなるなどした場合に備え、別の任意後見契約について、先順位の受任者が欠けるまでは任意後見開始の審判をしない旨の合意を公正証書で定めることができるようになります。
- 法定後見(補助)との併用:現行制度では、法定後見が始まると任意後見契約は効力を失いますが、改正後は、新制度の「補助」であれば、任意後見契約と併用できる道が開かれます。例えば、任意後見契約でカバーできない部分だけを「補助」で補うといった柔軟な使い方が可能になります。
これらの改正は、任意後見契約に関する法律の柔軟性を高め、将来への備えとして、より利用しやすい選択肢となることを目指すものです。
現在、成年後見制度を利用中の方はどうなる?(経過措置)
「すでに家族が後見や保佐を利用している場合はどうなるのか」という点は、多くの方が気になるところでしょう。法改正では、こうした既存の利用者への配慮として「経過措置」が設けられるのが通例です。
まだ詳細は未定ですが、一般的に以下のような選択肢が用意されることが想定されます。
- 現行制度のまま継続する:改正法施行後も、引き続き現行の後見や保佐の枠組みのまま支援を継続する。
- 改正後の「補助」へ移行する:家庭裁判所に申立てを行い、審査を経て、新制度の「補助」に切り替える。
- 制度の利用を終了する:本人の状態が回復しているなど、新制度の終了要件を満たす場合には、審判の取消し(制度の終了)を申し立てる。
どの選択が最適かは、ご本人の状況やご家族の意向によって異なります。改正法の施行が近づきましたら、具体的な手続きについて改めて専門家に相談することをおすすめします。当事務所でも、最新の情報を踏まえ、個別の状況に応じたアドバイスを提供してまいります。
法改正に関するよくある質問(Q&A)
最後に、今回の法改正に関して想定される質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q. 改正法の施行を待ってから動くべきですか?
A. 一概には言えません。もし、現時点で後見制度の利用が急を要する状況であれば、まずは現行制度での申立てを検討すべきです。一方で、将来への備えとして検討している段階であれば、改正後のより柔軟な制度の利用を視野に入れるのも一つの選択です。ただし、最も重要なのは、判断能力がはっきりしているうちに、ご自身の意思で将来の備えをしておくことです。任意後見契約や
遺言書の作成
は、改正を待つ必要なく、今すぐ始められる有効な対策です。
Q. 改正でデジタル遺言も創設されると聞きましたが、関係は?
A. はい、今回の民法改正では、成年後見制度の見直しと同時に、電磁的記録等により作成し、法務局で保管する「保管証書遺言」制度も創設されます。これは、遺言作成の選択肢を広げるものであり、成年後見制度の改正とは直接的な関連はありませんが、どちらも「本人の意思を尊重し、財産管理や承継を円滑にする」という大きな目的を共有しています。詳しくは、法務省や法務局の公表情報をご確認ください。
Q. 家族信託との使い分けはどう変わりますか?
A. 家族信託は財産管理に特化した柔軟な仕組みですが、本人の生活や介護に関する契約行為(身上監護)は対象外です。成年後見制度は、この身上監護も行える包括的な制度です。今回の改正で成年後見制度がオーダーメイド型になることで、両者の使い分けはより柔軟になると考えられます。例えば、財産管理の中心は家族信託で行い、身上監護や信託でカバーできない部分を改正後の「補助」で補う、といった組み合わせもより現実的な選択肢になるでしょう。どちらが最適かは個別の事情によりますので、専門家にご相談ください。
まとめ:改正を待つだけでなく、今できる準備を始めよう
2026年の成年後見制度改正は、「終身制の廃止」や「補助への一本化」などを通じて、制度をより本人本位で柔軟なものへと変える、非常に意義深いものです。これまで制度利用にためらいを感じていた方々にとっても、大きな安心材料となるでしょう。
しかし、ここで最もお伝えしたいのは、「法改正をただ待つだけでなく、判断能力がはっきりしている元気なうちから、将来の備えについて考え、行動することの重要性は変わらない」ということです。
ご自身の意思で信頼できる人を選ぶ「任意後見契約」や、財産の分け方を決めておく「遺言」、あるいは生前贈与といった対策は、判断能力が低下してしまってからでは手遅れになってしまいます。
今回の法改正は、将来の財産管理や生活支援について検討するきっかけになります。八戸いちい事務所では、司法書士・行政書士として、成年後見制度はもちろん、遺言や家族信託など、皆様の状況に合わせた適切な生前対策をご提案しております。将来に関する漠然とした不安やお悩みがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
