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相続土地国庫帰属制度の現状と実績【青森県の農地・山林版】
相続土地国庫帰属制度の現状|全国の申請・承認実績データ
「管理できない土地を国に引き取ってもらえるなら…」そんな期待を込めて、2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度。関心の高さは、全国の申請件数にも表れています。
法務省が公表しているデータを見ると、令和8年6月30日現在、申請件数は全国で5,698件、国庫への帰属件数は2,885件となっています。制度開始から申請・帰属の実績は積み上がっている一方で、申請後に取り下げられたり、要件を満たさずに却下・不承認となったりするケースもあります。申請されたものの、審査の途中で取り下げられたり、要件を満たさずに却下されたりするケースも少なくありません。

特に、この記事のテーマである「山林(森林)」に目を向けると、その厳しさがより鮮明になります。申請件数自体は田・畑や宅地に次いで多く、令和8年6月30日現在で山林は868件、森林として国庫に帰属した件数は193件となっています。これは、山林が国の管理に適した状態にないと判断されるケースが多いことを示唆しています。
「自分の土地も、もしかしたら引き取ってもらえないかもしれない…」
こうした全国のデータを見ると、少し不安に思われるかもしれません。ですが、大切なのは、この制度の実態を正しく理解し、ご自身の土地が要件を満たす可能性があるのか、冷静に見極めることです。
この記事では、こうした全国の現状を踏まえ、特に青森県で農地や山林を手放したいとお考えのあなたへ向けて、制度のリアルな実情と、クリアすべき具体的なハードルについて、専門家の視点から詳しく解説していきます。この制度の全体像については、相続土地国庫帰属制度の要件・費用・申請方法で体系的に解説しています。
【青森県版】相続土地国庫帰属制度の現状と実務上のリアル
全国の状況に続き、私たちの地元である青森県に目を向けてみましょう。青森地方法務局の相続土地国庫帰属制度ページでは、この制度の申請から承認までの標準的な処理期間を「8か月」と公表しています。これはあくまで目安ですが、申請すればすぐに結果が出るわけではない、ということをまず心に留めておく必要があります。
そして、ここからは実務に携わる専門家として、特に青森県内の農地や山林でこの制度の利用を検討する際に直面する、よりリアルな課題についてお話しさせてください。
ご相談の現場で感じるのは、「理想と現実のギャップ」です。特に農地や山林の場合、制度を利用するための「準備」が想像以上に大変で、多くの方がその段階でつまずいてしまうのです。
まず、申請には土地の境界が明確であることを写真で示す必要があります。しかし、長年管理していなかった山林や畑の境界を正確に把握している方は稀で、結局、境界調査の専門家である土地家屋調査士に依頼することがほぼ必須となります。問題は、多額の調査費用をかけたにもかかわらず、審査で不承認となってしまえば、その費用はすべて無駄になってしまうリスクがあることです。
さらに、仮に審査に通ったとしても、国に納める「負担金」という費用が待っています。この負担金が、場合によっては数十万円から百万円以上になることもあります。すると、「これだけのお金を払って手放すくらいなら、これまで通り固定資産税を払い続けた方が負担が少ないのでは?」という結論に至るケースが、実務上は本当に多いのです。
このように、青森県内の農地や山林においては、調査の手間や費用対効果の問題から、実際に申請までたどり着くこと自体が非常にハードルが高い、というのが偽らざる実感です。もちろん、中には森林の土地の所有者届出など、管理のための手続きも存在しますが、根本的な解決にはなりません。だからこそ、次の章で解説する「承認の要件」を事前にしっかり理解しておくことが何よりも重要になります。
農地・山林の申請で特に注意すべき3つの承認要件
相続土地国庫帰属制度には、国が引き取れない土地の要件が細かく定められています。その中でも、特に青森県の農地や山林で申請を考える際に、承認の可否に影響しやすい3つのポイントに絞って解説します。これらの要件を満たせるかどうかは、承認の可否を判断するうえで重要なポイントになります。もし、ご自身の土地が農地である場合、そもそも農地の処分方法は多岐にわたるため、他の選択肢も視野に入れることが大切です。

①境界が明らかでない土地・所有権争いがある土地
申請が却下される最も多い理由の一つが、この「境界問題」です。国が土地を引き取るということは、国がその土地の新たな管理者になるということです。もし境界が曖昧なまま引き取ってしまうと、将来、隣の土地の所有者と国との間で「どこまでが国の土地か」というトラブルに発展しかねません。こうした将来の紛争を避けるため、境界が明確であることは絶対条件とされています。
申請の際には、境界標(コンクリート杭や金属標など)と、隣地との境界線がはっきりと写っている写真の提出が求められます。しかし、先祖代々受け継いできた山林や畑に、明確な境界標がすべて設置されているケースは稀でしょう。
もし境界標がない場合は、隣地の所有者と話し合いの上で目印を設置し、その経緯を書類に残すなどの対応が必要になります。この作業は非常に手間がかかり、専門的な知識も必要となるため、多くの場合、次の章で解説する土地家屋調査士への依頼が不可欠となります。
②管理・処分を阻害する樹木や工作物がある土地
「土地の上にあるもの」も厳しくチェックされます。国は、基本的に「更地」に近い状態で土地を引き取りたいと考えているためです。
例えば、山林であれば、手入れされずに荒れ放題の樹木や、不法投棄されたゴミ。農地であれば、放置された古い農機具や、使われなくなったビニールハウス、崩れかけた農機具小屋などが「管理・処分を阻害する有体物」とみなされます。
たとえ登記されていない古い廃屋であっても、それが土地の管理の邪魔になると判断されれば、申請者自身の費用で撤去しなければなりません。これらの撤去・処分費用は、場合によっては高額になることもあります。申請を検討する前に、土地の上に何があるのかをしっかり確認し、必要であれば撤去費用の見積もりを取っておくことが重要です。
③崖地など、管理に過大な費用・労力がかかる土地
土地そのものの物理的な状態も、承認を左右する重要な要素です。「通常の管理に過大な費用や労力がかかる土地」は、国に引き取ってもらえません。
特に青森県の地形を考えると、急な斜面にある山林や畑も多いのではないでしょうか。法律では、「勾配が30度以上で、高さが5メートル以上ある崖」がある土地は、原則として引き取れないと定められています。また、土砂崩れの危険があるような土地も対象外となる可能性が高いでしょう。
さらに山林の場合、適切な間伐などが行われていない「荒廃した森林」も注意が必要です。国が引き取った後、追加で整備費用がかかると判断されれば、不承認の理由になり得ます。このように、土地の状況によっては、そもそも制度の対象要件を満たさないケースもあります。なお、森林を相続した場合は、国庫帰属制度とは別に市町村への届出が義務付けられていることも覚えておきましょう。
申請の最大の壁「境界調査」とは?土地家屋調査士の役割
ここまで読んでいただいて、「どうやら境界の確認が特に重要な課題になりそうだ」と感じられた方も多いのではないでしょうか。その通り、相続土地国庫帰属制度を利用する上で、多くの人が直面する特に負担が大きくなりやすい手続きが「境界調査」です。
長年、不動産の名義変更などのご相談を受けていると、ご自身の土地の正確な境界をご存じない方がほとんど、という現実に直面します。この境界を法的に確定させる作業を行うのが、「土地家屋調査士」という国家資格を持つ専門家です。

土地家屋調査士の役割は、単にメジャーで土地を測るだけではありません。その仕事は、以下のような多岐にわたる専門的なプロセスを含みます。
- 資料調査:法務局に保管されている古い地図(公図)や測量図などを調査し、土地の歴史や形状を読み解きます。
- 現地調査・測量:専門的な測量機器を使って、現地の地形や境界標の有無などを精密に測量します。
- 隣地所有者との立会い:調査・測量結果をもとに、すべての隣接地の所有者と現地で立会い、境界を確認・合意します。
- 境界標の設置:合意が得られた境界点に、永続性のある境界標(コンクリート杭など)を設置します。
- 図面の作成:すべての調査結果をまとめ、法的な効力を持つ「地積測量図」などの図面を作成します。
この一連の作業には、数ヶ月単位の時間がかかることも珍しくありません。費用は土地の広さや隣接地の数、地形の複雑さによって大きく変動しますが、数十万円以上になるのが一般的です。私たち司法書士・行政書士は、こうした土地家屋調査士と緊密に連携し、申請手続き全体をスムーズに進めるお手伝いをしています。
申請にかかる費用総額|負担金と専門家への報酬
制度の利用を最終的に決断する上で、費用の全体像を把握しておくことは不可欠です。大きく分けて、以下の3種類の費用がかかります。
① 審査手数料
申請時に国(法務局)へ支払う手数料です。土地1筆あたり14,000円が必要となります。
② 負担金
審査をクリアし、承認された場合に、国へ納付するお金です。これは、国が今後10年間その土地を管理するために必要な費用に相当します。原則として宅地は20万円ですが、農地や山林は面積に応じて金額が加算される仕組みになっています。
例えば、市街化区域や用途地域が指定されていない地域の農地や森林の場合、面積にかかわらず一律で20万円です。しかし、それ以外の地域では面積に応じて負担金が変動します。
③ 専門家への報酬
前述した境界調査や測量が必要な場合の「土地家屋調査士への費用」や、申請書類の作成・手続き代行を依頼した場合の「司法書士・行政書士への費用」です。土地の状況によって大きく変動するため、一概には言えませんが、これらも数十万円単位で見ておく必要があるでしょう。

これらの費用を合計すると、最低でも20万円台後半から、境界調査が必要なケースでは100万円を超えてくる可能性も十分にあります。「この費用を支払ってでも、本当に手放す価値があるのか?」この点を、ご自身の状況と照らし合わせて冷静に判断することが求められます。
国庫帰属が難しい場合の代替策
ここまで解説してきたように、相続土地国庫帰属制度は、費用や承認要件の面で、誰もが簡単に利用できる制度ではありません。「自分の土地では、どうやら難しそうだ…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、落胆する必要はありません。国庫帰属以外にも、不要な土地を手放すための選択肢はいくつか存在します。
- 隣地の所有者へ売却・譲渡を打診する
最も現実的な選択肢の一つです。あなたの土地が不要でも、隣地の方にとっては「自分の土地を広げられる」というメリットがあるかもしれません。まずは一度、お声がけしてみる価値はあります。 - 地域の農業法人や森林組合に相談する
農地であれば地域の担い手となる農業法人、山林であれば森林組合が、買い取りや引き取りに応じてくれる可能性があります。地域の情報を集めてみましょう。 - 農地バンク(農地中間管理機構)を活用する
農地を貸したい人と、規模を拡大したい農業の担い手をマッチングさせる公的な仕組みです。所有権は手放せませんが、管理の負担と固定資産税の負担を軽減できる可能性があります。 - 相続放棄を検討する
相続が開始してから3ヶ月以内であれば、家庭裁判所で相続放棄の手続きをとる方法もあります。ただし、不要な土地だけでなく、預貯金や自宅などプラスの財産もすべて手放すことになるため、慎重な判断が必要です。
どの方法が最適かは、土地の状況やご自身の希望によって異なります。一つの方法に固執せず、多角的な視点で解決策を探ることが大切です。
まとめ|青森県の農地・山林でお困りなら専門家へ相談を
今回は、相続土地国庫帰属制度の現状、特に青森県の農地や山林に焦点を当てて、そのリアルな実情と課題を解説しました。
この記事でお伝えしたかった最も重要なことは、「この制度は万能ではない」ということです。不要な土地を手放せる画期的な制度である一方、特に農地や山林においては、境界の確定や管理状況、そして費用面で非常に高いハードルが存在します。
何も準備せずに安易に申請してしまうと、大切な時間と費用を無駄にしてしまうことにもなりかねません。そうならないためにも、まずはお一人で悩まず、専門家にご相談ください。
あなたの土地が制度を利用できる可能性があるのか、費用対効果は見合うのか、あるいは他の方法が良いのか。私たち八戸いちい事務所では、司法書士・行政書士として、あなたの状況を丁寧にお伺いした上で、最善の道筋を一緒に考えます。必要であれば、信頼できる土地家屋調査士と連携し、調査から申請までをワンストップでサポートすることも可能です。
ご相談は初回無料相談です。肩ひじ張らず、まずはお気軽な気持ちでお問い合わせいただければと思います。土地の状況に応じた対応方法について、初回相談で具体的に確認いたします。